AI作品の権利は誰のもの?

先日、あるクリエイター向けのセミナーで興味深い質問を受けました。

「AIに小説を書かせました。この作品の著作権は私にあるのでしょうか?それともAIにあるのでしょうか?」

この質問、実はとても根本的な問いかけなんです。。。

AIによる創作物が急速に増えている今、「これは誰の作品なのか?」という問題は多くの人が直面している課題です。あなたも、AIで生成した文章や画像を仕事やSNSで使っていて、ふと「これって大丈夫かな?」と不安になったことはありませんか?

従来の著作権法は「人間による創作物」を前提に作られていました。しかし、AIが小説を書き、絵を描き、音楽を作る時代。この前提が大きく揺らいでいるのです。。。

目次

AI創作物の法的位置づけの現状

まず知っておくべきは、現時点での法的な立場です。

日本の著作権法では、著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されています。ここで重要なのは「創作性」と「人間の創作物」という要件。

2025年1月の文化庁報告書では、「人間の創作的関与が必須要件」とされており、AIが単独で生成した作品には著作権が認められないという見解が示されています。

さらに、プロンプト入力だけでは「創作性不十分」という判断ですが、以下の場合は著作権が認められる可能性があるとしています。

  • AI出力の選択・編集に創造的判断が含まれる場合
  • 生成物を素材に人間が独自の表現を追加した場合

つまり、AIにプロンプトを入れて生成された文章や画像そのものには、基本的に著作権は発生しないということです。。。

一方で、米国では状況が少し異なります。

米国著作権局の2025年報告書でも、AI生成物単体には著作権を認めないとしながらも、「人間による創造的関与が出力に反映されている場合」には著作権保護の可能性を示しています。実際に、AI出力の50%以上を人間が改変した事例では著作権が認められた例もあります。

EUでは、2024年のEU政策において、AI単独の生成物は著作権で保護されないという立場が明確にされています。英国でも同様の傾向ですが、プロベナンス技術(制作過程を記録する技術)を用いた著作権管理を推進する動きが見られます。

国によってこれほど異なるアプローチがとられているという現実。。。

グローバルに活動する企業や個人にとっては頭の痛い問題ですよね。

ステークホルダーの権利関係

AI創作物には、実に多くの関係者が権利を主張しうるのが複雑なところです。

例えば、ある小説をAIに書かせた場合を考えてみましょう。

まず、AIの開発企業です。OpenAIやStability AI、Anthropicなどは、自社のAIが生成したコンテンツに対して、利用規約で一定の権利を主張しています。各社のサービス規約では、ユーザーがAIで生成したコンテンツの所有権についての方針が示されていますが、AIモデル自体や学習データに関する権利は企業側が保持しています。

次に、プロンプトを作成したユーザーです。

プロンプトの詳細度によって創作性の判断が変わってきます。例えば:

「青い空を背景に、海辺に立つ少女の後ろ姿を描いて」というようなシンプルなプロンプトでは創作性が認められにくいですが、「トルストイ風の文体で、19世紀ロシアを舞台にした、貴族の没落を描く3000字の短編小説を書いて」といった詳細なプロンプトには、一定の創作的寄与があると考えられています。

実務的には、以下のようなプロンプトが創作性を高めると考えられています:

  • 文体指定:「夏目漱石の『こころ』の文体で」
  • 構想指示:「三幕構成で、各幕に転換点を設定」
  • 視覚的詳細:「印象派の筆致で、光の反射を強調」

さらに複雑なのが、AIの学習データとなった原作品の権利者の存在です。

「特定の画家のスタイルで」と指示して作品を生成した場合、元の画家の権利はどうなるのでしょうか?この問題は、現在多くの訴訟が進行中です。例えば、ニューヨーク・タイムズ対OpenAI訴訟では、AI出力が訓練データを複製する可能性が争点になっています。また、Cohere訴訟では、4,000件の著作物の無断使用問題が取り上げられています。これらの裁判結果は、AIと著作権の関係を大きく変える可能性があります。

責任の所在と倫理的問題

著作権と並んで重要なのが責任の問題です。

もしAIが生成したコンテンツが他者の著作権を侵害していた場合、責任を負うのは誰なのでしょうか?

大手企業が発表している「生成AIの責任ある使用に関するフレームワーク」では、生成AIツールの企業側とユーザー側の責任範囲を明確にする試みがなされています。これらのフレームワークでは、一般的に以下のような責任分担が示されています:

  • 企業側:適切なモデル学習とガードレールの設置
  • ユーザー側:生成されたコンテンツの最終的な使用と公開判断

別の問題として、AIが生成した有害なコンテンツの責任も考える必要があります。

例えば、AIが作成した偽情報や差別的な表現が拡散された場合、誰が責任を負うのでしょうか?この問題に対する明確な法的解答はまだありませんが、多くの専門家は最終的な公開・利用の判断をした人間に責任があるという見解を示しています。

東京大学の専門家は「AIツールは包丁と同じで、使い方によって便利にも危険にもなる。使用者の意図と判断が最も重要」と指摘しています。つまり、AIが生成したものをチェックせずに公開すれば、その責任は公開した人間にあるということです。

実務的な対応と今後の展望

では、現時点での実務的な対応策を考えてみましょう。

  1. AIで生成したコンテンツの利用目的を明確にする
    実務での使用か、個人的な参考か、商用利用かによって注意すべき点が異なります。特に商用利用の場合は各AIツールの利用規約を確認することが重要です。
  2. プロンプトとAI生成物を記録に残す
    どのようなプロンプトでどのような生成物が作られたかの記録は、後々の権利問題や責任の所在を明確にする上で重要です。特にビジネスでは、このプロセスの文書化が推奨されています。最新の業界標準では、AI使用記録の保持期間を3年以上とすることが一般的になりつつあります。
  3. 人間による創造的な編集・加工を行う
    AI生成物をそのまま使うのではなく、人間による実質的な編集や創造的な加工を加えることで、著作権保護の可能性が高まります。実際の判例では、AI出力の50%以上を改変した事例で著作権が認められた例があります。
  4. 出典と生成プロセスを明記する
    透明性の確保は信頼構築に不可欠です。特に公開コンテンツでは「このコンテンツはAIを使用して作成し、人間が編集しています」といった表記が重要です。
  5. リスク管理ツールの導入を検討する
    AI生成コンテンツ検出ツール(Turnitinなど)の導入や、CCライセンス素材を優先的に使用するなどの対策も検討すべきでしょう。

今後の展望としては、各国での法整備が進んでいます。

日本では2025年に著作権法の改正が予定されており、AI学習におけるデータ利用(30条の4の適用範囲)の明確化や、AI生成物の二次利用ルールの策定が進められています。

国際的には、世界知的所有権機関(WIPO)が2026年を目標にAI生成物の国際基準策定を進めており、2025年6月に第1回草案が公表される予定です。このような国際的な調整により、グローバルでの権利関係がより明確になるでしょう。

権利意識を持ちながらAIと共創する

AI創作物の権利問題は、まだ発展途上の分野です。絶対的な正解がない中で、私たちはどう向き合えばよいのでしょうか?

大切なのは、「AIを使った創作物だから」と権利意識を軽視せず、従来の著作物と同様に丁寧に考えていくことではないでしょうか。

AIは確かに強力なツールですが、最終的な判断と責任は人間にあります。AIが作成したものを鵜呑みにせず、人間の視点で確認し、必要に応じて編集・加工する。そして、そのプロセスを明確にしておく。

企業においては、月次で法務ガイドラインを更新し、生成AI使用プロセスを継続的に監査する体制を整えることが求められています。特にクリエイティブ産業では、AI使用の記録をしっかりと残すことが標準になりつつあります。

個人であっても、特に商用利用を検討している場合は、以下の点に注意することをお勧めします:

  1. AIツールの利用規約をしっかりと確認する
  2. 生成過程を記録に残す
  3. 人間による創造的な編集・加工を加える
  4. 使用するAIツールの学習データの特性を理解する
  5. 定期的に最新の法的動向をチェックする

こうした姿勢がAIと著作権の問題に対する現実的なアプローチと言えるでしょう。。。

AI技術の進化と法整備は現在進行形で変化しています。定期的に最新の法的動向や業界ガイドラインをチェックする習慣をつけましょう。

あなたは、AI生成コンテンツの権利について、どのように考えていますか?その考えに基づいた適切な行動ができていますか?

今日も素敵な1日を。

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この記事を書いた人

一般社団法人 未来教育パートナー
代表理事 甲斐慶彦

マーケティングとAIの掛け算で、事業拡大や業務効率化を支援。
私学の広報支援も手掛け、日本教育を次のステップに進めたい、という情熱のもと当法人を設立。

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