先日、とある中学校の教員研修会に参加した際、一人のベテラン教師からこんな質問を受けました。
「生成AIって授業で使った方がいいのはわかるんですが、具体的に何からどう始めればいいのか、まったく見当がつきません。かえって子どもたちの学びを妨げないか心配で…」
この先生だけではありません。多くの教育現場で同じような戸惑いの声を耳にします。生成AIの可能性は感じつつも、実際の授業でどう活用すればいいのか悩んでいる方が非常に多いのが現状です。。。
日本の教育現場では生成AIの活用が急速に広がりつつありますが、具体的な活用方法や影響については、多くの先生方が手探り状態です。文部科学省も2024年に改訂されたガイドラインで情報モラルの重要性を強調するなど、適切な活用を促しています。
つまり、多くの学校が試行錯誤しながら生成AIを導入しようとしているということ。。。
今回は、そんな状況にある先生方に向けて、生成AIを授業に効果的に取り入れるための具体的な方法をお伝えします。
授業設計の3段階アプローチ
生成AIを授業に取り入れる際は、「授業前」「授業中」「授業後」の3つの段階で考えると整理しやすいんですね。
授業前の活用
授業前の準備段階では、生成AIは強力な「教材開発アシスタント」になってくれます。
例えば、単元全体の計画を立てる際、生成AIに「中学2年生の英語で、不定詞の用法を教える5時間の単元計画を立ててほしい。各回のねらいと活動例も含めて」と指示すれば、基本的な単元構成が短時間で出来上がります。
もちろん、これをそのまま使うのではなく、あくまで「たたき台」として活用するのがポイントです。。。
また、同じ教材でも難易度の異なるワークシートを複数作成したり、生徒の理解度に合わせた補助教材を準備したりする際にも非常に役立ちます。
東京都の私立中学校では実際に「ChatGPTを使うようになってから、教材準備の時間が約30%削減された」との報告があります。浮いた時間で生徒との対話や授業改善に力を入れられるようになったそうです。
また、京都府京丹後市では「ELSA AI」を使い、生徒の英語スキルに応じた練習教材を提供する取り組みが進められており、個別学習の質を高めています。
授業中の活用
授業中の活用方法としては、次のようなパターンがあります。
- リアルタイムでの質問応答補助
奈良県では英語の授業でChatGPTを活用し、生徒が考えた英文をリアルタイムでチェックする取り組みを実施しています。英作文への抵抗感が減少し、積極的に取り組む生徒が増加したという成果が出ています。 - 個別指導のサポート
一斉授業中に理解が追いつかない生徒に対して、AIが個別に概念を説明したり、つまずいている部分を特定したりするのに活用できます。 - 多言語サポート
外国籍の生徒への支援として、授業内容を母国語で補足する機能も有効です。言葉の壁を越えて学習内容を理解できるよう支援します。
授業後の活用
授業の振り返りや評価の段階でも、生成AIは大きな力を発揮します。
例えば、生徒の提出物やテスト結果をAIに分析させることで、クラス全体の理解度や個々の生徒の弱点を客観的に把握できます。
また、次回授業の改善点を抽出したり、個別フィードバックを効率的に生成したりすることも可能です。
大阪府では実際に、生成AIを使った分析によって生徒理解が深まり、授業改善につながったという報告があります。一人ひとりの生徒に合わせた声かけができるようになり、授業の質も向上しているそうです。
効果的な導入のための5ステップ
では、具体的にどのように生成AIを授業に導入すればよいのでしょうか?ここでは5つの基本ステップをご紹介します。
Step 1: 学習目標を明確に定義する
生成AIを活用する前に、その授業で「何を学ばせたいのか」を明確にすることが最も重要です。
例えば「批判的思考力を養う」という目標があれば、AIの回答を鵜呑みにせず検証するプロセスを組み込むなど、目標に合わせた活用法を考えましょう。
Step 2: AIを使う場面と生徒自身が考える場面を区分する
生成AIは万能ではありません。「ここは生徒自身の頭で考えさせたい」という場面と、「AIのサポートを活用したい」場面を明確に区分することが大切です。。。
この点は、東京のある学校での事例が参考になります。英語の日記課題で生徒が生成AIに頼りすぎてしまい学習効果が低下したため、課題設定方法を変更した例があります。生徒がまず自分で考え、その後AIでチェックするという順序を明確にしたのです。
Step 3: 生成AIの使い方を具体的に示す
生徒に生成AIを使わせる場合は、具体的なプロンプト例を示すことが効果的です。
文部科学省のガイドラインでも指摘されているように、生徒が効果的に生成AIを活用できるようにするためには、具体的な指示や例示が重要です。
例えば、次のようなプロンプトを生徒に提供すると良いでしょう:
- 説明強化型:「中学2年生に向けて、光合成の仕組みを簡単な言葉で説明してください。具体的な例えと図解のアイデアも含めてください」
- 多様な視点型:「江戸時代の鎖国政策について、肯定的意見と批判的意見の両方を示し、それぞれの論拠を3つずつ挙げてください」
- 思考の足場型:「正負の数の掛け算について説明する授業の導入部分を考えています。生徒が日常生活と結びつけて理解できるような問いかけを3つ提案してください」
Step 4: AIの回答を批判的に検証するプロセスを組み込む
生成AIの回答をそのまま受け入れるのではなく、批判的に検証するプロセスを授業に組み込むことが重要です。
文部科学省も2024年のガイドラインで「情報モラル教育」の重要性を強調しており、AI利用時には事実確認や著作権問題への配慮が必要だと指摘しています。
例えば「AIの回答に間違いがないか確認しよう」「AIが提案した解決策の問題点を考えてみよう」といった活動を取り入れることで、情報リテラシーや批判的思考力を育むことができます。
Step 5: 学びの成果を共有・振り返る時間を設ける
生成AIを使った学習の後には、必ず振り返りの時間を設けましょう。
- どのようなプロンプトが効果的だったか
- AIの回答のどこが参考になったか
- AIの回答のどこに問題があったか
- 次回はどのように改善できるか
こうした振り返りを通じて、生成AIを「ただ答えを得るツール」ではなく「思考を深めるパートナー」として位置づけることができます。
教科別の具体的活用事例
生成AIの活用方法は教科によっても異なります。ここでは、実際の学校での取り組み事例を紹介します。
英語:即時フィードバックで苦手意識を克服
奈良県では、英語の授業でChatGPTを活用し、生徒が考えた英文をリアルタイムでチェックする取り組みを実施しています。
従来は教師が一人で添削するため時間がかかり、生徒はフィードバックを受け取るまでに時間差がありました。しかし、生成AIを活用することで、書いた直後に添削を受けられるようになり、その場で修正して再挑戦できるようになったのです。
京都府京丹後市でも「ELSA AI」を使った英語学習の取り組みが行われており、生徒の英語スキルに応じた練習教材の提供により学習効果が高まっています。
歴史:多角的な視点で深まる理解
高校の歴史の授業では、生成AIを使って多角的な視点から歴史的事象を考察する取り組みが進められています。
例えば、歴史上の出来事について様々な立場からの見解をAIに生成させ、生徒自身の考えと比較します。そして「なぜそのような見解が生まれるのか」「どのような歴史的事実に基づいているのか」を検証する活動を行います。
この取り組みにより、歴史的事象への多面的な理解が深まるだけでなく、AI回答の妥当性を検証する力も養われるというわけです。
総合的な学習:地域課題の解決策を考える
大阪府では、総合的な学習の時間で地域の課題を考えるワークショップにAIを活用しています。
例えば「地域の高齢者の孤立を防ぐには?」という問いに対して、子どもたちがまず自分たちのアイデアを出し合い、その後でAIに相談します。AIからの提案も参考にしながら、最終的に自分たちならではの解決策をまとめていくのです。
この活動を通じて、地域課題への当事者意識が高まるとともに、「AIの答えを超える人間ならではの発想」の重要性に気づく子どもたちも多いそうです。
効果的なプロンプト設計のポイント
生成AIを授業で活用する際、最も重要なのは「どんな問いかけをするか」です。つまり、プロンプト設計が成功の鍵を握っています。。。
効果的なプロンプトを設計するためには、以下の4つのポイントを意識しましょう。
1. 対象を明確に指定する
「中学2年生向けに」「英語が苦手な生徒に」など、対象を明確に指定することで、より適切な回答を引き出せます。
例:「中学1年生の数学が苦手な生徒向けに、比例の概念を日常生活の例を用いて説明してください」
2. 回答の形式や長さを指定する
文章の長さ、含めるべき要素、使用する言葉のレベルなどを具体的に指示しましょう。
例:「小学5年生向けに、台風の仕組みを300字程度で説明してください。専門用語は使わず、身近な例えを3つ以上含めてください」
3. 思考を促す開かれた問いを組み込む
単なる事実確認ではなく、「なぜ」「どのように」「何が起きるか」といった思考を促す問いを含めることが重要です。
例:「室町時代と江戸時代の違いを説明し、なぜそのような違いが生じたのか、また、現代の日本社会にどのような影響を与えているかを考察してください」
4. 評価基準や活用方法を含める
回答をどのように評価するか、どう活用するかという視点を含めることで、より目的に合った回答を得られます。
例:「高校生向けの小論文の評価基準を作成してください。論理性、独創性、表現力、資料活用力の4つの観点から、それぞれ5段階で評価できる具体的な基準を示してください」
文部科学省のガイドラインでも強調されているように、生徒がAIツールを効果的に活用するためには、適切な指示とガイダンスが不可欠です。プロンプト設計のスキルを教員自身が身につけ、生徒にも伝えていくことが重要なのです。
国立教育政策研究所の調査によれば、生成AIの導入初期には学習効果の低下が見られる場合があるものの、適切な指導と3ヶ月以上の継続的利用により、批判的思考力や問題解決能力の向上につながるケースが多いことが示されています。
つまり、生成AIを授業に取り入れる際の最大のポイントは、「教師や生徒の思考を代替するもの」ではなく、「教育活動を拡張し、より深い学びを可能にするツール」として位置づけることなのです。。。
文部科学省が2023年末に発表した「生成AI活用指針」でも、1)AIリテラシー教育の充実、2)適切な評価方法の開発、3)教師の指導力向上の3点が重視されています。特に教員のAIリテラシー向上が最重要課題となっているのです。
生成AIとの付き合い方を学び、それを授業に効果的に取り入れることは、もはや「付加価値」ではなく「必須スキル」になりつつあります。
あなたは生成AIを授業にどのように取り入れていますか? まだ始めていないとしたら、今日から小さな一歩を踏み出してみませんか?
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